八十八夜はもうすぐ。5月のまばゆい光の中、知覧の茶畑で感じたこと

風土風習

日本を代表する飲み物といえば日本茶です。有名な産地は、東日本の人なら静岡県がまず思い浮かびますよね。確かに栽培面積、生産量とも日本一です。

一方、西日本、とくに九州地方の人にとって馴染み深いのは鹿児島県。実は静岡県に次いで生産量は2位、産出額では肉薄している状態なのです。*2019年の産出額は鹿児島が1位。翌2020、2021年は静岡が奪還しています。

その鹿児島にあって、とくに注目されているお茶の産地が南九州市です。ここは2007年に頴娃町、知覧町、川辺町の3町が合併してできた新市でして、お茶好きな方ならピンとくるのではないでしょうか? 

そう、いずれの町も「知覧茶」、「えい茶」、「川辺茶」のブランド名が付くほどのお茶の産地として知られ、合併したことで、南九州市の茶の栽培面積、荒茶生産量は全国市町村のトップに躍り出たのでした。

そして2017年には3つのブランドを「知覧茶」に統一。南九州ならではの温暖な気候と恵まれた日照、そして桜島の火山灰による肥沃な土壌に支えられ、お茶業界の中ではとくに注目されている存在なのです。

そんな知覧茶のおひざ元。まだ合併する前の知覧町で、早い時期から農薬を使わないお茶作りに力を注いでいたのが、今回ご紹介するおりた園さんです。食情報誌の取材で、社長の折田信男さんからお茶の収穫から製造までのお話を聞いたわけですが、とくに印象に残ったのが無農薬へのこだわりでした。

実は折田さん、当初は普通のお茶農家として、当たり前のように除草剤や殺虫剤などの農薬で使っていたところ、身体を壊してしまいました。その時に気づいたのです。

「生産者が身体を壊すような栽培方法では、消費者が安心して飲めない。もう農薬から離れよう、離れて全ての流通をしっかり管理し、自分で納得できるお茶を作ろう」

当時の茶農家は農協を通して出荷するのが当たり前だったのを見直し、栽培→製茶→仕上げ→袋詰め→販売まで、全て自社で行うことにしたのです。もちろん、最初からうまくいくはずありません。何度も研究と試行錯誤を重ね、九州地区で少しずつ認めれ、全国茶品評会の農林水産大臣賞などを受賞するまでになりました。

そして、太陽の恵みたっぷりのカテキン番茶、水出し煎茶などの新分野にも精力的に取組み、飲料メーカーのアドバイザーに請われるなど、業界から一目置かれる存在になったのです。

「昔なりの成分のあるお茶。精神的にリラックスできるお茶。体質も改善の助けになるお茶。そんなお茶を作っていきたいのです」

と語っていた折田さん。もうこれだけで消費者として嬉しい限りです。

折田さんのお茶に対する愛情は、畑や工場での姿を見ていても伝わってきました。5月の収穫期にお邪魔した時、お茶の新芽を嬉しそうに手に取る様子。何度も製造工程を確かめる姿はとても印象に残っていますし、その時にご馳走になった新茶のまろやかさと味わい深さは衝撃的でした。

「お茶ってこんなにおいしかったのか」

今更ながらに驚き、食の安全性の大切さを学んだ僕なのでありました。

(取材こぼれ話)
おりた園さんの収穫の様子をカメラに収めるべく、まさに八十八夜の5月初旬、茶畑の中に3時間ほど頑張っていたところ、見事に日焼け。帰りに飛行機の中でCAさんに気遣われるほど腕が赤く腫れていました。それだけ夢中で撮っていたのでありました。ここでご紹介している写真も、その時のものです。

協力:おりた園
写真は2005年撮影。徳間書店食楽取材時。

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