普通に売っている寿司が普通じゃない。高知の田舎寿司は最強の郷土料理

食文化

突然ですが、ハッキリ宣言します。高知の最強郷土料理は田舎寿司です!

のっけからこんなことを書くと驚かれると思います。中には「まずはカツオのたたきや皿鉢料理でしょ?」との声もあるでしょう。しかし、それらは現在、観光客が安価で気軽に食べられるものとは言いがたく、食べたと自慢しても有名すぎて旅の土産話として弱すぎます。

だからこそ田舎寿司なのです。なぜなら、高知は日本でも断トツの田舎寿司王国。田舎寿司を語るなら、まず高知へ。と声を大にして僕は叫んでおきます。しかし、

「ホントに? 高知の寿司なんて聞いたことないなー・・・」

という方のため、県内各地で遭遇する田舎寿司をざっとご紹介しましょう。

■高知市から室戸方面へ
まずは、国道55号線をゆっくり走りながら沿道のスーパーマーケットを踏査してみましょう。もちろん目指すは惣菜売り場です。ズイズイと奥に進んでいくと、一般の惣菜に混じり、必ずといっていいほど寿司コーナーがあるはずです。

並んでいるのは一般的な太巻きやいなり? いやいや、これが驚くなかれ、こんにゃくやりゅうきゅう(ハスイモの茎)、太刀魚、サバなど6種類ほどが入った一人前詰め合わせパックがズラリ並んでいます。

県外の人には驚きの光景でしょうが、これが高知の標準的な惣菜売り場なのです。どこの町に行っても当たり前に見られる光景。お値段はいずれも400~500円。財布の紐もつい緩みます。

香南、芸西、安芸に入ると大きなスーパーは少なくなりますが、随所にある野菜や魚の直売所で田舎寿司に手招きされます。内容は微妙に異なり、皿鉢につきものの羊羹入りのパックが彩りも鮮やか。奈半利では甘い金時豆入りの寿司があったりとバラエティ豊か。

馬路村や北川村あたりは、ゆずの産地なので、寿司を頬張るとほのかなゆずの香りが広がり、何とも優雅な気分になりますよ。他にミョウガやナスなど山の幸をネタにしたものなどもあり、いずれも少し甘めのシャリと柑橘系の爽やかさが印象に残ることでしょう。

■海・山・川の幸がシャリの上で一体化

高知市から少し山側に入った土佐町、いの方面も田舎寿司の種類は豊富です。中でもこんにゃく、りゅうきゅう、タケノコ、しいたけなど山合いならではのネタが多く見受けられます。

もちろん定番のサバは必ずあり、いの町ではりゅうきゅうとサバで二段になっている押し寿司もありました。店のお母ちゃんに聞くと、

「りゅうきゅうの寿司はこうして中にサバを入れて押し寿司にするのが古くからあるやり方でね、最近は手間がかかる分、サバを省くことも多くなっているかもしれないね」

と解説してくれました。また、ここには大根をほのかなピンク色に甘酢漬けにして中にご飯を詰めたものもあり、鮮やかな彩りが目を楽しませてくれました。

もちろん全ての寿司はご飯がギュッと詰まっていて1人前のパックを食べればもうお腹いっぱい。こういう寿司を仁淀川の河川敷に座って頬張るなんて、旅の贅沢そのものだと思いますよ。そういえば、このエリアの姿寿司は定番のサバやアジのほか、川魚のアマゴ(アメゴ)も見かけました。

■巻寿司なのに具がない。それでもうまいのはなぜ?
高知県西南部地方は幡多エリアと呼ばれ、佐賀や久礼、土佐清水などの漁港を有するところ。このあたりで売られている寿司は、安芸や室戸方面が特産のゆず酢を使っているのに対し、秋から冬にかけての時期は仏手柑(ぶしゅかん=酢みかんのこと)を使うなど、季節ごとに柑橘類を変え、絞り汁はもちろん皮も刻んで入れているのも特徴のひとつです。もちろんご飯はギッチリ! ネタも大きめで漁師の心意気が詰まったような寿司が多いです。

姿寿司の種類が豊富なのもこのエリア。四万十市の大きなスーパーを覗いてみればサバにアジ、カマス、アマダイ、イトヨリ、シマアジまで並び、売り場を見ているだけでもワクワクしてきます。

一方、巻寿司は昆布や玉子で巻いたものが多く、具なしもよく見かけます(黒潮町、四万十市など)。でも、実はこの具なし巻寿司は酢飯に前述の柑橘系果汁や皮、胡麻、生姜、サバのほぐし身が入っていたり、昆布は魚のアラで煮て味付けしてあったりと、目に見えないところに細かな仕事が生きている逸品なのです。

勝手な想像ですが、四万十市を中心とする幡多地方はその昔から小京都と呼ばれ、高知県のなかでは独自文化を持っているので、食にもそれが現れているのかもしれません。

ちなみに具のない玉子や昆布の巻寿司は高知県では古くからお供え物としても使われていたようで、法事などの帰りにはこの巻き寿司を配る習慣も残っています。これが結構重くてですね、持ち帰るのが結構大変なのです(笑)

■無駄な情報ですが……
実は、僕はこの田舎寿司が好きで、仕事先の旅雑誌に郷土のお寿司特集企画を提案したことがありました。交通新聞社「旅の手帖」2007年1月号の「にっぽん郷土寿司紀行」がそれです。自分が関わった仕事のなかでも、とくに思い入れのある内容です。

おかげさまで、これが縁で地元高知新聞に何度か取り上げていただいたり、当時の高知県知事、橋本大二郎さんとのご縁もでき、高知県観光特使にしていただきました。ちなみに、僕の観光特使名刺には特別に「土佐の田舎寿司広報隊長」の肩書が付いているのでありました。

ということで、このサイトでは今後も高知県の田舎寿司の話題をさらに詳しく、ご紹介していく予定です。お楽しみに。

写真は主に2006年撮影。交通新聞社「旅の手帖」取材時

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