港町で愛されるシンプルでボリューム満点の総菜パンの味が忘れられない

食文化

沼津といえば港町。

つい魚に目が行きがちになるけれど、僕の心をわしづかみにしたのは、地元のソウルフードと呼ばれる桃屋のパンでした。場所はちょっとわかりづらいし、店の規模もとても小さいけれど、地元の人に「桃屋はどこですか?」と聞けば、きっと教えてもらえるはず。

桃屋の屋台骨は、お母ちゃんと息子。独特の食パン生地のコッペパンに、とんかつ、メンチかつ、コロッケなどを挟んだ、いわゆる総菜パンがウリ。

パンはほどよいやわらかめ、研究を重ねた特製の、ちょっと甘めのソースがたっぷりかかっている。キャベツとかレタスなどの野菜は入っていないのが、いさぎよい。逆に、そんなものを足さなくても、どシンプルにうまいのだから、文句などあろうはずなし。

接客を担当しているお母ちゃんの人柄も最高。ここの常連さんたちは、お母ちゃんの体調を気にしながらも、何十年と通っている人がザラのはず。

僕が訪れた時も、若い夫婦が車で来ていて、奥さんのお腹が大きかった。以前沼津に住んでいて、このパンの味が忘れられなくて、1時間かけてやってきたと話してくれた。

安くてボリュームも満点。小さな間口から顔を出すお母ちゃんとちょっと話をするだけで、ほっと幸せな気分になれる。

近年はコロナやお母ちゃんの手術などで休業日が連続した時もあるらしいが、沼津の近くに行ったなら、何はともあれ、ここに行きたい! そんなお店なのであった。

*画像は2005年、交通新聞社「旅の手帖」取材時

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