長田のソウルフード、そばめしの人気店で見たいぶし銀の職人芸

食文化

JR新神戸駅から海側に歩くこと10分弱。西神戸センター街アーケードの入口にあったのが、お好み焼きの「ゆき」さん。

店構えがどっしり地元に根の生えていることを示していました。人通りのあまりない商店街の中にあって、お昼時とはいえ、ちょっと眺めているだけで次から次へとお客さんが入っていきます。

混雑を避け、しばし店の前で眺めているうち、期待感はグイグイ高まります。あ、もうあかん、腹減った。我慢できん。

お腹の虫に突っつかれ、暖簾をくぐり、ガラッと戸を開けます。この瞬間って、初めての店だと結構緊張するんですよね。

「ぃいらぁっしゃぁあーーーい」

元気いっぱい、それでいて優しさのあふれた声が迎え入れてくれました。緊張感から一転、思わず笑みがこぼれました。席をどこにしようか迷っていると娘さんなのだろう、笑顔いっぱいに

「こちらにどうぞー♪」

招かれた。お店に来たというより、知り合いの家に遊びに来たような感覚です。

緊張がほぐれたところで改めて店の中を見渡すと、実はここが舞台であることに気付きました。誰の舞台かって? それは奥のイチバン大きな鉄板の前でコテを振るオヤジさんのですよ。

小柄だけど全身を使い、一生懸命に具材に魂を注入している。その傍らには奥さんが居て、全ての作業が滞りなく進むように手伝い、完成と同時に娘さんの手を経て料理が運ばれる。家族の連携がとても気持ちいいのです。

注文したのはここ、神戸が発祥の地というそばめし。東京生まれの僕にとって初めてのメニュー。なのでおやじさんに頼み込んで、作るところを近くでじっくり見せてもらったら驚いた。

鉄板に油をまったく引かず、ご飯を炒め始めたのです。

「これがなー、ウチのやり方」

おやじさんはちょっと得意そうに語りつつ、コテでご飯を躍らせる。油を使ってないから手を休めているとすぐにコゲ付いてしまうのだそうだ。

さらに牛スジ、ソバ、キャベツも順によーく炒め、コテで細かく裁断して混ぜていく。一瞬たりとも止まらない。最後に塩と胡椒、ソースなどでで味付けして出来上がり。

白かったご飯がほんのり茶色になり。そばと見事にミックスしているのがよく分かった。

完成したそばめしは娘さんがチリトリみたいなものでザッとすくって、客の鉄板の上に置きます。むろん、その鉄板も熱しているのでアツアツのままいただける。熱くても関西らしく取り皿はなし。

告白しますと、僕、すっごい猫舌なんですよ。でも、ここで郷に従わないのは野暮ってもんです。意を決し、渡されたコテでそばめしをすくってハッフハフしながら口に運びます。あちっ!

あ、でも…。こっ、こりゃあ、スゴイや。

瞬時にそう思いました。実に深い味わいなのです。塩も胡椒もソースも絶妙であり、牛スジに染み込んだダシの味わいが上手に引き出されている。見た目はかなりコッテリなので、どんどん入っていくのは油を使ってないから?

おっ、おっ、おっ! と驚いているうちに、そばめしが

「はい、ごめんよゴメンよー」

と喉から食道を練り歩き、胃袋に吸い込まれるいく。

途中、このソースも旨いんだ。とおやじさんがくれたのは、地元のドロ辛ソース。ちょっとのせて食べたら、おぉ、すっごいスパイシー。じわっと汗が出ながらもさらに食べるスピードがアップしました。

うまくて、居心地良くて、気持ちよくて、とても安い! 感謝を込めてご馳走様。

*画像は2006年、交通新聞社「旅の手帖」取材時

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