高知の県庁所在地は高知市だけど、鰹の国の首都は中土佐町久礼だよね

観光・まちづくり

中土佐町久礼という漁師町の存在に興味を持ったのは1994年、某カード会社会員誌取材のため、JR土讃線土佐久礼駅に降り立った時のことです。目的はとびっきりの「カツオ」。駅では町役場の担当者が出迎えてくれました。

ご挨拶した後、最初に連れていかれたのは駅近くの喫茶店でした。「まずはお昼を食べましょう」と案内されたわけですが、なぜ魚の取材に来ているのに喫茶店なのだと不思議に思ったものでした。

ところが、そこで出てきたランチにはカツオの刺身がどーんと乗っていまして、これがまた、今まで食べたことないようなモチモチの食感と、奥深い味わいがあったのです。ビックリしました。

そう、町の担当者はこれを食べさせたかったのです。あれこれ説明されるより、確実に伝わりました。その後の話もまた良かった。彼の口から次々にあふれ出る地元ならではの「カツオ愛」。漁師がいかにカツオを大切に扱い、工夫を凝らしているか。うまいカツオとはどのようなものなのか。熱のこもった話に圧倒されながら、どんどんカツオの魅力に引きずりこまれたのです。素晴らしいプレゼンでした。

次に連れていかれたのは、大正町市場です。ここは明治時代から漁師のお母ちゃんたちがその日に獲れた小魚を露天で売り、人が集まるようになると、魚以外の野菜や果物を売る店が増え市場となりました。大正時代には大火事で焼失してしまったものの、時の大正天皇より復興費の寄付があり見事に復活。以来、市場は「大正町市場」の名が付き、2015年には誕生100周年を迎えています。

そんな市場の中心的存在である田中鮮魚店で、先代の大将から再びカツオ愛の講義を受け、タタキの作り方を見せていただき、藁で焼くことの意味と、そのおいしさをたっぷり堪能させていただいたのでした。

それだけじゃありません。市場には漁師のお母ちゃんたちが立売りをしていて、その魚がまた激安で、とてつもなくうまかった。これは僕の中で、今も強烈に残っている中土佐町久礼との出会いでありました。

以降、久礼の人々との縁が繋がる機会が増えました。2006年には田舎寿司の取材で県内を周っていた時、取材先のひとつにドタキャンされ困っていたところを助けてくれたのが、崎山総菜の大将でした。*現在は営業していません。

買い物途中の何気ない会話の中で、僕が困っていることを知ると、「明日また来れるか? よっしゃ、任せとき!」と、撮影する予定だった皿鉢を作ってくれたのです。自宅にも招かれ、自分が漁師だった時の話をじっくり聞かせてもらいました。

2009年には久礼のまち歩きと地産地消をテーマに訪ねたところ、ガイドを務めてくれたのが松澤青果店(八百虎)の大将。久礼では「あきやん」で通っている名物男でして、久礼八幡宮と地域の人々との関係。この漁師町を舞台にした漫画「土佐の一本釣り」や、その作者である青柳裕介氏との縁。西岡酒造の酒造りなど、地元ならではの話をたっぷり聞かせていただきました。

さらに、他の店や漁師のお母ちゃんたちに声をかけ、写真を撮らせてもらった縁もあり、僕の久礼愛はどんどん深まるばかり。何度も訪れてはさまざまな店の大将、漁協組合長、現役漁師のおんちゃん、西岡酒造を継いだ現社長などと話をすることで、すっかり馴染みの、居心地のいい場所になったのです。会う人会う人、皆さん地元への愛着が強く、この町の宣伝になるならと、面倒なお願いも笑顔で引き受けてくれることにも大感謝なのでした。

だから、僕は高知に行けば、必ず久礼に寄ります。顔なじみの人たちとの交流はもちろん、ここにしかないものを買うためです。久礼あがりと呼ばれるカツオ、ピッカピカの平アジ、漁師のおかあちゃんたち手作りの干物やおじゃこ。久礼天にカツオ飯などの総菜などなど。

鮮度が命の新子やウルメイワシの刺身は、その場でさばいてもらい食べますし、タタキや干物は持参の保冷材と発砲スチロール箱で厳重に保冷しながら、東京まで持って帰ります。

こんなものを保冷しながら持って帰り↓
切り分けて皿に盛ったら久礼定食のできあがり。酒はどんどん進みます

もうひとつ、僕がこの市場が大好きな理由のひとつに、「いさぎよさ」があります。天気が悪く漁に出られないときは、基本的に魚の買い物は諦めてくださいというスタイルです。大きな店はそれなりに対策は練っているものの、漁師のお母ちゃんたちは休むか加工品を売るかのどちらか。わざわざ行って、地物が何もない時はガックリしてしまいますが、それが本来あるべき姿だと思うのです。

大正町市場は静かです。全国の有名市場では、うんざりするほどの声がけに遭うことがあるけれど、この市場は黙々と仕事をしながら、小さな声で「いかがですか」と誘われるくらい。優しい時間が流れています。

地元の人でも観光客でも、相手に気持ちよく買い物をしてもらおうという姿勢が感じられるのです。何か尋ねれば親切丁寧に教えてくれるし、その場でさばきたての刺身が食べたといえば、醤油や器まで出てきます。

市場で買い物をすれば、自由に使っていい休憩所「ぜよぴあ」もあるし、遠くまで魚を持って帰るといえば、はいどうぞと保冷剤を付けてくれる心遣い。

とにかく、ここに来たら、スマホの情報などに頼らず、地元の人たちと話をしてみてください。会話をすることで、生まれる新たな発見がたくさんあるはずです。そして、これからの季節なら、まずは初ガツオを楽しみましょう。

写真は2005年~2019年分が混在しています。
交通新聞社「旅の手帖」/徳間書店「食楽」などの取材時

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