子育て世代から熱い視線を集める紫波町ってどんなところ?

観光・まちづくり
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紫波町の読み方は「しわちょう」です。

と、説明する必要があるほど、他県の方には馴染みのない名だと思います。でも、タイトルにもあるように、岩手県、それも県庁所在地盛岡や花巻で働く人々には、結構知られた町なのです。

■町の中心に新駅を造るも開発は塩漬けに
紫波町は盛岡市から南に20㎞ほどに位置し、1970年頃から人口増加が続いていました。ただ、その中心街はJR東北本線の駅(日詰)から離れていたため、JRに対して新駅の請願をしています。

これに対し、JRは新駅のための原資は地元が用意し、乗降客数も確保することを条件に承諾。1998年に紫波中央駅が開業したのです。そして、駅の北側に県の住宅供給公社とJRが420戸の宅地を分譲。南側は町民からの寄付を募り、町が10.7haの土地を取得し、公共公益施設を整備することになりました。

紫波中央駅

しかし、宅地は売れたものの、財政難から公共公益施設の整備が進まず、体育館とパーク&ライド駐車場を造った後は、塩漬け状態が10年ほど続いてしまいました。

地方都市のまちづくりでよくある話です。正直な話、こうなるとなかなか前に進めることができず、構想がしぼんでしまうことが多々あるのですが…。

■公民連携により綿密な開発計画を練る
2006年、ある町民がまちづくりのための公民連携を学ぶべく東洋大学大学院に入学したことを機会に、町と東洋大学が連携協定を結び、塩漬け状態の土地の活用法を模索することにしたのです。


そして、役場内に公民連携室を設置。2年間に100回以上の意見交換会を重ね、2009年からオガールプロジェクト(紫波中央駅前都市整備事業)として動き始めました。

それでも、まだ町民の反応は冷ややかだったといいます。公民連携って何? 要するに、どこかに丸投げして、ありきたりの箱モノでも造って税金の無駄遣いをするのだろうとの辛辣な意見もあったはずです。

■ここだけにしかない施設を充実
2011年、プロジェクトが最初の成果としてオープンさせたのは「岩手県フットボールセンター」でした。その後、図書館や産直販売の「紫波マルシェ」が入った官民複合施設「オガールプラザ」(2012年)、バレーボール専用コートのオガールアリーナと宿泊施設の「オガールベース」(2014年)などがオープン。長年の懸案だった町役場の新庁舎もこのエリアに建設し開庁(2015年)させたのです。

紫波マルシェ
オガールアリーナ

ここで注目したいのは、サッカーやバレーボールに特化した専用施設と宿泊施設を造ったという点です。普通なら総合運動施設を考えるでしょうが、あえて専門施設にすることで、他との差別化を図り、特別な存在にしたわけです。


この目論見は成功し、これらの施設には日本はもちろん、後の東京オリンピックに参加した海外のナショナルチームも滞在。かつてのJヴィレッジ(福島県)がそうであったように、バレーボールの聖地にすることができたのです。

宿泊施設、オガールイン

■ユニークな図書館とエコハウスな住宅街
もうひとつ、図書館の存在も見逃せません。中に入ると、とにかく開放的なのです。しかも、軽く音楽も流れていて、飲み物の持ち込みも可能。隣には町民の交流スペースが設けられ、音楽や料理を楽しめるスタジオも完備しています。

紫波図書館(紫波町提供)

これだけの設備を駅前に揃えたわけですから、盛岡をはじめとした周辺からの注目が高まります。そこで隣接する土地を、オガールタウンとして整備。1区画あたり平均67坪の土地は約1000万円。住宅は町内指定業者と建設契約を締結すること、エコハウスとしての機能を持たせ、オガールタウン景観協定を守ることの条件をクリアすることを条件に販売したのです。

■百年後の子供たちに引き継ぐ循環型まちづくり
参考までに、土地とエコハウスの建物、全て合わせると3000~3500万円ほどかかります。この界隈では高いほうです。それでも、憩いの場や図書館、役場などの機能が充実した、駅まで徒歩5分で行ける新しくて閑静な住宅街なので人気が高く、子育て世代の30代前半を中心に新たな住民が増えました。

紫波町が循環型まちづくりを掲げ、「今の環境を保全し、想像し、百年後の子どもたちに確実に引き継ぐ」ことを目標としていることも、共感を呼んだのだと思います。

オガールエリアの中心にあるオガール広場(紫波町提供)

■空の広さを実感できるまちづくり
実際、紫波中央駅から少し歩いていると、最初に目に入るのは広々とした住宅街。視線を遮るようなビルはなく、気持ちよく空を見上げることができます。それだけで、ここに住む価値があると思えるのでした。

住む以外の町の魅力も話題に事欠きません。紫波町は南部杜氏発祥の地として知られ、町内に100年以上の歴史を持つ4つの日本酒蔵のほか、ワイナリーやサイダリーがある、酒のまちでもあるのです。つまり、水がおいしくて、酒の原料となる米やフルーツも豊富なわけで、それを目当てにやってくる観光客も多いのです。

盛岡方面に観光に行く方は、ちょっと足を延ばして駅周辺を覗いてみてはいかがでしょう?

紫波町町役場

参考リンク オガールプロジェクト

写真は、全日本不動産協会「月刊不動産2018年7月号」取材時
協力:住宅新報

写真協力:紫波町

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