僕は観光客用の高価なグルメに興味がありません。そもそも、高いなら美味しくて当たり前だし、産地に行ったのに東京より値段が高いなんて、意味がないと思っています。
ある日、「道東でローカル線の旅をしながら美味しいものを紹介して」なんて仕事がありまして、釧路~根室の花咲線沿線を担当することになりました。そこで最も悩んだのが釧路でした。きっと皆さんが思い浮かべるのは〇〇市場でしょうが、当たり前すぎますよね。
自分の名前で書くのだから、意地でも別のところを探してやると情報を集めていた時に出会ったのが、鮭番屋さんでした。手ごろな値段で、豪快に魚を食べることができるらしい。
ただ、釧路港の造船所が集まっているエリアにほど近い立地ということで、釧路駅から歩くには遠く、バスで行くことはできても本数が少ない。つまり、地元、もしくはマイカーやバイクで北海道に来る人たちのために営業しているような店なのです。
しかも、早朝から営業している分、14時には終了となってしまう・・・。鉄道旅を前提にしているとマイナス面がいっぱい。果たしてどうなのか。悩みながらも行ってみることにしました。
店は直売所に食事処が併設されている形でした。おまけに、食処はテント。ありゃ、ここで食べるの? 初めての人はここでたじろぐかもしれません。まずは落ち着いて、工場直売所の方に入りましょう。ここで自分の食べたい食材を選び、隣のテントに移動するのです。ここでは炭火で焼く形になっていました。
直売所内の食材は、干物がメーンのようです。柳ガレイ、ホッケ、ツボダイ、コマイ、サンマ、鮭ハラスなど。どれも巨大でぷっくり太っていました。悩んだ末、ホッケにシャケハラス。さらに生ホタテとご飯+味噌汁のセットを注文したら、いざお隣へ。
といっても、自分で焼く必要はありません。ちゃんとスタッフが美味しく焼いてくれます。これがまた豪快でして、トングと調理はさみを持って、起用に、繊細に切り分けてくれるのです。
ジリジリと焼ける音。身からはねる脂、鼻腔をくすぐる香り、もう見ているだけで幸せになれます。素晴らしいのは、骨もしっかり食べて欲しいと、上手に身から外し、別にして強い焼きを入れてくれることです。
「こうしてね、魚は全部食べてもらいたいんだ」
と、店長さん。魚の皮さえよけて残す人が多いご時世だけに、このように生き物を無駄にしない姿勢を見せてくれるのは嬉しいです。かくいう僕もイワシの塩焼きなら骨ごと食べてしまうし、塩鮭の皮は絶対に食べたい派なのでした。
でも、撮影用とはいえ、ちょっと量が多すぎました。正直、半分食べるのが精一杯なくらい。意地でも残さず食べたけれど、ホタテなんか1個食べたら腹いっぱいになりそうなボリュームで苦労しました。なのに、この時のお会計はたったの合計1100円。価格も味も十分納得のお店でした。
ところで、取材をしている最中、若者5人がガヤガヤと入ってきたかと思うと、にぎやかにビールで乾杯し宴会が始まりました。気になって声をかけてみたら、地元の子らしく、朝まで遊んだ帰りのシメにやってきたようです。
写真、撮ってもいいですよーと気軽に応じてもらえたので、失礼してシャッターを切りましたけど、いやー、食べるわ食べる。そして呑むぅーーーー。
良かったら一緒に呑みませんか? などと社交辞令も言ってもらえましたが、さすがに仕事なので、そうもいきません。若いっていいなと、うらやましく思いながら、おじさんは次の仕事場に向かったのでありました。
写真や価格は2009年のものです。交通新聞社「旅の手帖」取材時。