別記事でおしぼりうどんをご紹介した長野県坂城町の人口は約1万4000人。基幹産業は工業で、精密機械を作っている中小企業が多く、「石を投げれば社長に当たる」町だと言われています。
小さな町で工業が発展したのは、戦争中疎開してきた工場がそのまま定着したことや、地の利が関係しているようで、国道18号線や信越本線という大動脈が通っていることも見逃せないようです。
さて、そんな坂城町の食文化を知ろうと12月に訪ねると、食改さん(食生活改善推進協議会)の方々が、自宅でよく作っている漬物を持ちより、どーんと披露してくれました。
ビックリしました。漬物王国の長野県とは聞いていたけれど、ここまで種類が多いとは! そして始まった各漬物の説明は、興味深いものばかり。まぁ、その豊富なバリエーションを見てください。
・野沢菜漬け
・ナスの粕漬け
・ねずみ大根漬け
・白ウリの粕漬け
・大根漬け(たくあん)
・しょうが、大根、ゴボウの味噌漬け
・はやとウリの粕漬け
・しょうがの梅酢漬け
・大根のリンゴ酢漬け
・ナスの一夜漬け
■漬物はおやつです
興味深かったのは、これらの漬物を、地元の人たちがどのようにして消費しているかです。僕はてっきり食卓におかずの一部として出すものと思っていました。ところがよく話を聞くと、おやつ感覚だそうで、人が集まれば漬物が並ぶのが当たり前。
誰かの家に遊びに行くと、ちょっとしたお菓子とお茶が出てくるのと同じように、自慢の漬物が並び、おしゃべりを楽しみながら食べているのです。いわゆる女子会というやつですね。でも、それだとやっぱり塩分が辛くなりませんか?
「だからね、お茶は大きな急須にたっぷり入れて、茶葉を替えずに薄いのを何杯も何杯も飲むの」
なるほど、ある意味対策は練っているわけですね。まぁ、それでも塩分の取り過ぎは課題のようで、とくに野沢菜の季節(12月)は毎日のようにたっぷり1株分(200~300g)は夫婦で食べてしまう傾向があるようです。
この地方で漬物が好まれる理由は諸説あります。僕的に一番納得できたのは、塩を保存するための役割という考えです。塩は人間にとって大切なものなのに、海なし県では容易に手に入りません。千国街道や北国街道に代表される塩の道で運ばれてきた貴重な塩を保存するため、野菜に塩を移して長期保存を狙ったというものです。
今は流通に不安はなくなったものの、このような昔からの習慣はやっぱり続いてしまうわけですね。お酢を上手に使いながら、減塩を心がけるよう気を付けたいものです。