道東の肥満問題は、基幹産業とその歴史が大きな影響を与えていた?

食文化

別記事で北海道野付郡別海町の健康問題について触れたところ、思った以上にアクセスが多かったようです。今回はその続編として、別海町の基幹産業と歴史を絡め、さらに詳しくご紹介します。

■一気に近代化した酪農事業
別海は酪農の町として知られています。それは明治初期から移民政策の一環として始まり、当時は過酷な手作業が主体。なかなか根付くことはなかったようです。厳しい自然環境を考えると、当然のことですね。

それがパイロットファームという国策により注目が集まり、大規模農業実現のため一気に機械化が進みました。おかげで草刈りなどはトラクターでできるようになり、農家は過酷な作業から徐々に解放。牛の飼養頭数は5年で倍増し、暮らしはぐっと楽になりました。

それでも、仕事に費やす時間はかなり長く、町の保健師たちが町内酪農家の生活サイクルを調べたところ、早朝5時には起きて仕事を始め、8時頃に朝食を食べていること。夕食は20時頃で、翌朝のため22時頃には就寝というパターンが多く見られました。

起きてから朝食までの時間が長いため、菓子パンや缶コーヒーで繋ぐこと。缶コーヒーを仕事の合間に数本飲む例もあり、糖分の取り過ぎに注目が集まったことは言うまでもありません。

■漁業も盛ん。酪農と背景が似ている
一方、町の東側は北方領土を望む海が広がり、昔から漁業が盛んでした。江戸時代には徳川家に鮭を献上していた記録もあります。

そして、昭和36年頃から始まったホタテ養殖事業で活気づき、鮭漁も好調。船や漁具の性能が格段に上がったことで、漁師たちの平均収入は昭和40年代後半から50年代にかけ約3倍になったといいます。

写真はイメージです。提供:公益社団法人北海道観光振興機構

当時は鮭だけで1年間食べていけるほど潤ったようで、昔は贅沢品だった缶コーヒーやジュースを箱買いして船に乗せ、漁をしながらグイグイ飲んだり、魚中心だった食が肉を移ってきたり…。

要するに、酪農と同様、急激な生活スタイルの変化が太りやすい体質を作り上げてしまったわけです。しかも、この地域は真夏でも20度ほどの気候。早朝から冷たい風に体をさらしながら働くため、とくに漁師は心臓の負担が増えてしまう傾向があり、ストレスからアルコール摂取が増え、エネルギー消費が追い付かないという例もありました。

■冷凍ストッカーのある暮らし
次に注目したのは食文化です。僕が驚いたのは、各家庭で食料保存のための大型冷凍ストッカーがあったことです。昔の雪に閉ざされる生活の名残なのでしょうか、一般家庭でも頻繁に見かけました。中身を見せてもらうと、高齢夫婦の二人暮らしでも、大量の食材がストックされていました。

とくに鮭は丸ごと数本入っているのが当たり前。「このあたりでは買わない。貰うもの」との常識があるようで、町の保健師さんの家庭訪問に同行したら、本当に「これ、持って行って」と手渡される光景を目にしています。

首都圏では高級品のホタテだって、「何も食べるものがない時、しょうがないからホタテでも食べるか」という扱い。フライやバター焼きにするのが多いそうです。

■え、その量が普通に出てくるの?
もらった鮭やホタテの調理法は、バーベキューが人気でした。その食べ方は量が多い分、豪快です。鮭なら半身をそのままチャンチャン焼き。それが一人前。ホタテはバター焼き。そして、肉もたっぷり用意するので、とんでもない量のカロリー摂取になります。「鮭は切り身で50gなんて栄養指導がむなしくなるほどの食生活」なわけです。

写真はイメージです。提供:公益社団法人北海道観光振興機構

ちなみに、このような大食傾向はお昼のランチを食べに行った町の食堂でも見られました。その時に普通に注文したのは、チキンカツ定食なんですが、カツは1枚じゃなく、2枚がデフォルトでした。

■栄養指導のマニュアルが通用しない
まだあります。住民の食生活を詳しく調査すると、圧倒的に魚介や肉類の2群が多く、3群の野菜が足りない傾向がありました。けれど、住民に聞くと野菜はちゃんと食べていると言うそうで、ではどのようなものを食べているのかと聞くと、ジャガイモやトウモロコシ、カボチャの名が出てくる……。

あ、あのー、それって確かに野菜コーナーで売っているけれど、糖質の高いものばかり…。なるほど、そういうことかと合点がいきました。これは北海道あるあるのようです。

提供:公益社団法人北海道観光振興機構

■食の改善だけでも効果はある
このような典型的な食生活の問題は、大人になってから始まるならいざ知らず、子供の頃からどっぷり浸かってしまうと、成人病予備軍が増えてしまいます。実際、以前の記事でご紹介したように肥満の問題があるわけですから、町としても高校生の健診を始めたり、運動の推奨に力を入れています。

ただ、このような生活習慣病は並大抵なことでは改善されないのもお約束でして、いかに住民をその気にさせるか。どう伝えればわかってもらえるのかに、町の保健関係者たちは頭を悩ませつつ、奮闘していました。

僕が言うのも何ですが、現場の関係者たちはプライベートな時間を割いて勉強会に参加するなど、とても頑張っています。公衆衛生の成果は数字に表れにくいけれど、ぜひ頑張っていただきたいと思うのでありました。

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